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 ■ 岸密晴(2009). ハオルシア雑感 カクタスガイド 272号 日本カクタス企画社刊 p.11~15


ハオルシア雑感  岸 密晴

 今回は通称スブレンデンスから話題として話を 進めてみたいと思います。

 1998年、ベンターとハマー両氏によってC&S  ,Jourllal(vo1.70、No.4)誌にマケニヒカの変 種として記載発表されました。①ホロタイプは北 アルバチニア産です。写真はありません。別に② メサガーデンの栽培品と③東アルバチニア産の写 真、それと表紙に④アルバチニア産の絵がのって います。別のところにパリス氏の⑤東アルバチニ ア産の写真があります。

 これより先に同詰(Vol. 66、No. 6、1994)上 にケント氏の実生標本が⑥マブニヒカの近似種と してでています。白味の強いものです。先のVol. 70のNo. 5にケント氏は⑦デケナヒ(タィブ産地、 北アルバチニア)の写真と⑧変種アルゲンテオマ クローサ(以後アルゲンに略します)の写真を発 表しています。

 前後しますが、同誌(Vol. 54、No. 6、1982) に⑨レツーサ変種デケナヒの写真加でています。

 福屋本(p. 46)の北アルバチニア産とベイヤー 本再訪(以後改訂版とします)のアルバチニア産 が同じようです。産地ごとに区別できる個体群があるとすれば、これが①ホロタイプのものと同じ ということになるようです、しかレベイヤー氏 の単にアルバチニアというのが気がかりになります。

 ②のメサの栽培品については、アビーガーデン のデケナヒ変種アルゲンと対比してみると、大柄 で白線も少なく、隆点列もよりなめらかなような 気がします。アビーの方はサキュレント(No. 113) (昭和51年)誌に佐藤勉氏の標本写真が発表され ています。わが国にはこの頃に本変種は紹介され たもののようです。これとメサのものとの違いを 記したいということです。メサのアルゲンはわが 国での発表はなかったのではと考えています。

 ④は絵ですのでふれないニとにしますレ③と⑤ は東アルバチニアのものですが③は葉裏の斑点に こだわらなければ変種スブレンデンスと思われま す。これに対して⑤の方は緑色味が強くて、姿態 そのものも感じが違うようです。これは林氏のエ スタホイゼニーの長葉のものを緑色にしたよう です。

 ⑥と福屋本(P.44、左下)のものと同じよう です。これの上と右のものも同じ系列のものと思 われますが、説明がないのではっきりしません。 ③⑤と福屋本のエスタホイゼニー、ベイヤー本 (改訂版)とは同じようです。その時の生理的な面 を考えての事で、細かい点(例えば色とか、葉が やや細いとか等の違い)を別としての話です。

 ⑦のデケナヒは改訂版では北東アルバチニア産 が2葉発表されています。褐色の個体は同じよう ですが、緑色のものは少し感じが違うようです。 スコット氏はツルギダを思わすようなデケナヒを 発表しています。色は近似しているようですが、 姿態は違うようです。

 ⑧は一見、西アルバチニアの変種スブレンデン スのようです。が、⑧がタイブ産地モ一ゼルベ イとクーパースステーションの間)だそうです。 ⑨、これはアビーのアルゲンといわれていたもの です。

 エスタホイゼニーについては変種スプレンデン スとの区別の境界を明示されないと斑点の無いも のが見つかるのではという思いも消すことができな いのではと思います。全く別種というだけでは意味 がないのではと考えられます。ハオルシア研究誌 (No. 8、P. 6)の中の写真の葉裏に、窓面と同色 の緑色の微細な斑点がみられるところから、斑点 には変異があるのではともとれるからです。

 だからエスタホイゼニーは少し不安定なところ がみられるので、もっと調査すべきではないのか なと思います。

 ベイヤーはスプレンデンス云々とありますが、 林氏が新種とされただけのことで、又ベイヤー氏 はベンター氏とハマー氏の説を引用しているだけ のことで、この点は明解に区別したいものです。 又新種というより変種スプレンデンスの一部に新 名を与えて分離したとした方がよいのではと思っ ています。もちろん分離するにはそれなりの理由 の明記が必要ではないかと考えています。

 通称アルゲン(林説によるレツーサ変種アルゲ

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ンとアビーのアルゲン)については、わが国では 林氏の報文が多く、皆さんの引用例も多いと思わ れます。何かわからないところをそのままにして 話が展開しているようにしか私には感じられませ ん。それはこのデケナヒとその変種についての充 分な説明をした報文がないことです。スミス氏が 記載したデケナヒはどんなものか、先ず紹介が あってそれぞれの変種の説明に入るのが常道では ないかと考えられます。

 不思議なことにスミス氏の名前はよく耳にする わりには、同氏の記載文等の情報は余り見聞きし ないようです。デケナヒについては先に佐藤氏の アルゲン発表に際して、その当時のことを反映し た解説文に、「大部分は信州あたりから流布され た明るいグリーンの寿の容姿のものです]とあり ます。これがわが国では最初に流布されたデケナ ヒと思います。

 園芸ガイド誌(発行日不明、丁度、用紙がこん 日のようになった頃)にデケナヒとピクタの写真 がでています、一般誌ですのでどうかなと思った のですが、参考になると思われるので記しておき ます。当時全盛であった大阪サボテンクラブの同 好者の協力を得て発表されたものです。その頃の デケナヒ変種アルゲンやベークマニー(林説のゼ ニガタ)とミニマものっています。

 このデケナヒと福屋デケナヒとは基本的な体形 は似ているようです。少し葉か細く、斑点が少な いことが違うぐらいのようです。ここに力を入れ て考えると、信州デケナヒは誤りではと思いま す。が、はっきりするまではラベルには信州デケ ナヒとしたらと思います。

 それならスミスデケナヒというニとですが、私 はベイヤ本(改訂版)をたよるしかありません。 二葉の写真がでています。一葉は緑色型、もう一 方は褐色型です。この後者のもの(ベイー説では マグニヒカ変種デケナヒ)と変種スプレンデンス の一部とは区別は難しいのではと思われます。又 ピクタ(ベイヤー説ではエミリアエ)の褐色型の 一部のものもよく似ているようです。ベイヤー氏 の分布図をみると、ピクタはより内陸よりという か山地よりで、これに対してマグニヒカの変種群 は海岸よりとか平地よりというところで、これら は一連のものとも考えられるようです。それで似 ていて当然ともいえるわけでしょう。

 多肉植物写真集(S.56)に佐藤勉氏のアビー アルゲンの標本写真がでています。モーゼルベイ産です。園芸植物大辞典には松井謙治(岸が執筆 したことになっています)氏によるアビーアルゲ ンの写真があります。原種デケナヒはリバース ディール東部産となっています。デケナヒはピク タによく似ている個体もあり、同定は難しいそう です。アルゲンについては書いてありません。

 少し脱線しますが分類関係では重要というか、 参考になると思われるので引用しておきます。ベ イヤー氏は初めて集団変異や地理的変異を考察、 今後の研究の基礎とすべきこと(しかし異論もあ り流動的)、いずれにしても調査結果を待つこと 等です。辞典の解説はベイヤー説を中心に林氏の 現地調査資料を参考にしたそうです。

 原種デケナヒの写真がないのが借しまれます。基準変種とともにレツーサに含まれることもある と記されています。両者共記載者名はスミスになっ ていて、参考になると思います。ここで興味をひ くのは基準変種という用語です。植物では亜種が あれば、いちいち亜種の用語、変種があれば変種 の用語等関連したものすべてに付けるわけです。

 亜種や変種は種であるという人もいるけれども、 それは多分用語の読み誤りではないかと思います。 そうか新説か。種であれば明瞭に種と種の境界線 を明示する必要があるようです。できないものは 亜種と考えてよいと思われます。だから亜種群が 種であるというわけです。いわゆる現時点での分 類では進化ははいっていないわけで、最初に記載 されたものが基準になるわけです。変種だけの場 合は基準変種というわけで、変種群が種です。

 例えば、デケナヒに変種がある場合、基準変種としてデケナヒ変種デケナヒとなります。亜種が入る馬背はデケナヒ亜種デケナヒ変種デケナヒとなるわけです。面倒でも正式には全部書く決まり になっているようです。ついでながら、系統分類では種以下の階級は問題にしないようです。そこで従来の分類と考えが違うというか、方法の違いに注意が必要です。

 サキュレントNo. 67(S.47)に興味をひくことが書かれています。

 東京農大の水野辰同氏は現地を視察した時に「同種のハボルチアの群落が、数十米はなれていても変化していることを発見したそうです。故に変種は厖大な数字になり、とても命名するどころではない」ということを矢野雄造氏によって報告されています。ベイヤー氏の考えについてもふれておられます。

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 参考になるかどうかわかりませんが、矢野氏は 元々虫ヤさん(昆虫界の人)です。水野氏も近藤 典生博士も同じ仲間ではと思います。虫の世界が 認めてくれるかどうかわかりませんが、私は昔は そのようなものでした。虫の世界から仙界入りさ れた人も多くおられるようです。

 サキュレントNo. 103(S.50)では小林浩氏の 基礎的なことで参考になる報文があります。それ によるとイースト・ロンドン(南阿)のキンビフオ ルミスは10坪ぐらいのところに6~7タイプの顔 がみられるそうです。又スコット氏はこれらに 一々変種名をつけるのは無意味であるという考え をもっていることを付加しておられます。

 林氏はサキュレントNo.182(1982)誌上で、ム クロナータの変異を紹介しておられます。バン ウィクスドルブの一地点で、同じ群落中にビリネ アータ型のものからモリシアエ型まで混生してい て、変異の巾が非常に広いことを報告しておられ ます。(写真あり)

 群落にも変異が多々あるということを念頭に、 変種スプレンデンスは変異があるとかないとか考 えてみると興味も倍加されると思います。机上で はなかなか具体的なことはわかりませんが、いろ いろ発表された写真を見くらべるのも楽しいもの です。育種、圖芸的にみればどこの産地のものが、 よりすばらしいか大いに参考になると思います。

 今度は学名の上からみてみたいと思います。

 スプレンデンスは新変種としてベンターとハマー両氏によって記載発表されたものです。それ 故にレツーサf.アルゲンやアビーのものも含め てデケナヒ変種アルゲンは関係ないようです。シ ノニム表にもないから明らかなことです。ところ が林雅彦氏はこの新変種をもとに新種として表の 中で発表しておられます。バジオニム以外は書い てないので内容は不明です。そこで少なくともホ ロタイプの説明が欲しかったと思います。そうで ないと基準種抜きでスプレンデンスの変異を書く というのはおかしな話になるからです。

 わが国のハボルチア界は素直なのか、おおらかなのか、それともルーズなのか、アビーのアルゲンをベイヤー氏の改訂版を見て、似ている ことから、誰が先陣を切って言ったのかわからないが、私も含めて右へならえをしてしまった ようです。しかし先にも記したようにベンター 氏とハマー氏はこれらを元にして変種スプレン デンスを記載したわけではないようです。

 種スプレンデンスは林氏が変種スプレンデンス を種に昇格されたもので、デケナヒ・アルケンは 種シルビアエと同じく種として昇格しておられる ので、この点頭の整理が必要です。ここでいって いるアルゲンはレツーサf.アルゲンのことです。 いわゆるベイヤー氏のハンドブックにあるもので す。ベイヤー氏は変種ではなくて型にしています。 新ハンドブックではレツーサ変種デケナヒ(スミ ス)ベイヤーになっています、そしてデケナヒ・ アルゲンとレツーサf.アルゲンをシノニムとし て発表しているものです。

 これらのことは林氏が新種シルビアエを表中で 発表された時に説明すべきであったと思います。 デケナヒ・アルゲンとかピクタ型アルゲン(いわ ゆるアビーのアルゲン)とレツーサf.アルゲン を区別していました。そして前者をスプレンデン ス、後者をシルビアエと私も含めて皆さんもそう 思っておられると考えていますが、学名の上から みるとシルビアエはバジオニムがデケナヒ変種ア ルゲン スミスになっています。(H.研究誌 No.3)ベイヤー氏のレツーサf. アルゲンにはふ れられていないので注意すべきです。

 改訂版ではベイヤー氏はレツーサf.アルゲン をピグマエア変種アルゲンにしていて、林説をと ればシルビアエになるようです。ピルビン氏の写 真をとればレツーサ変種デケナヒになるようです。

 このようなことは、林氏が古い学名を使ってバジオニムにされたからです。わざわざ古い学名を 使われたことは、それなりの理由がおありと思い ます。ぜひともその理由の発表をお騏いしたいも のです。

 このへんで林氏の報文を参考にしてみたいと思 います。林氏はサキュレント(No.180、1982)誌 上で、デケナヒと変種アルゲンの基準標本の写真 を発表されています。そこで簡単にいえば、これ を元に可否を云々すれば終りということで、変異 個体群があれば付加されることですむことです。 欲をいえば標本の産地や標本の所往の明記、種と 変種の違い等がないのが惜しいことだと思います。

 このように林氏によってスミス氏のデケナヒと 変種アルゲンの基準標本の発表があるので、これ に従えば何もいうことはないのですが、アビーの アルゲンの園芸価値というか人気が高く、これを 付加して説明の字数が多くなってしまったところ に勘違いも生じたようです。林氏の言を借りれば スミス氏の記載には全くないそうですから、簡単

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にいえば除外するか、強いて記述するのであれ ば、sp.(不明種)扱いにすればよかったのでは ないかと思います。

 後述にレツーサf.アルゲンとアビーアルケン が別種であれば同じ名前を使うのは感心しない 云々とありますが、別種であれば別に問題はない のではと思いますが、どうでしょう。

 サキュレント(No.200、1984)誌では、日本で アルゲンといわれるものはデケナヒそのものであ るとあります。そうすると、先のデケナヒと変種 アルゲンの基準種の違いがはっきりしているので あれば、この発言は少々気になるところです。

 次に問題点になると思われることを記してみま す。皆さんも一緒に考えてみて下さい。

 林氏は研究誌No.7(2002)で変種スプレンデン スの一部を種(林説では新種)として発表されて います。又No.8では現地の3個体の写真が発表さ れています。No.9ではブロイヤー氏のアルバチネ ンシスの新種紹介があります。新種とありますが 種名の後にn.n.の略語がついています。これは新 種なのか、課名なのか、n.n.では不明です。その上、 =H.エスタホイゼニーとなっていると、何か意 味がわからないのではと思います。ニのままで考 えると林氏のエスタホイゼニーはアルバチネンシ スのシノニムになるからです。更に両種の写真が どうみても違いがあるように思われることです。 皆さんも見比べてみて下さい。

 ついでながら、別のものにエスタホイゼニーと いう種名がこの後にでてくることです。同一の名 前は使えませんからどちらが先に記載されたか詳 細はわかりませんが、もしブロイヤー氏のものが 裸名発表であれば正式発表ではないから、同氏に 情報提供をしてあげたらとも思いますが、どうで しょう。

 このへんで本文の整理をしてみたいと思いま す。分類のまねごとをしたら長文になってしまっ て、そのわりに意味がなかなか理解されなかった のではと考えます。

 簡単にいえばデケナヒとその変種アルゲンは林 氏がそれぞれの標本(基準標本)の写真を発表さ れているので、これに従えばよいわけです。デケ ナヒ変種アルゲンは福屋本に発表されています。 この変種には2型があるようです。それは福屋氏 のそのものと、コトブキ型(先に記した写真集に のっている佐藤氏のもの)です。

 このデケナヒ変種アルゲンをベイヤー氏はハンドブックでレツーサf.アルゲンに組みかえをし たわけです。そしてデケナヒ スミスをレツーサ 変種デケナヒにし、レツーサf.アルゲンをこれ のシノニムにしています,スミス氏はデケナヒを 記載した翌年(1945)にデケナヒ変種アルゲンと レツーサ変種アルゲンを記載(事情内容は不明) しているようです。このように学名(種名)の動 きが混乱を生じさしたのではと思います。ここの ところはもちろんベイヤー氏のシノニム表が正しいものとしての話です。

 現在ベイヤー氏は改訂版でこれらをシノニムと してビグマエア変種アルゲン(スミス)ベイヤー (1997)としています。ところで先日レツーサ変種 デケナヒを入手しました。モーゼルベイ産のもので す。これはピグマエアに似たコトブキのようなもの です。ベイヤー氏はレツーサf.デケナヒをマグニ ヒカの変種デケナヒとしています。デケナヒ自体正 否を別にするといろいろあるようです。このことは 現地の地理(地名や群落等)の詳細がわからない となかなか理解しにくいところです。

 変種スプレンデンスについては、まだ正式に発 表されていない末記録のものであったと考えた方 がよいようです。すでにわが国には渡来していた ようですが、俗にいえば一般的にデケナヒとか、 デケナヒの1型とかいわれて処理されていたよう です。アビーから例のデナケヒ変種アルゲンが渡 来して、これがそのまま含められたのではと思わ れます。わが国の仙界ではアルゲンはいわゆるシ ルビアエとアビーアルゲンの2型があったという わけです。

 林氏のスミスデケナヒとアルゲンのタイブ標本 写真発表を参考にすればそれで終わっていたわけで す。しかしアビーから入ってきたアルゲンが強烈 な印象を与えたため、多くの趣味家を惑わしてし まったようです。林氏のアルゲンはデケナヒその もの説は、学名の上から大きくみればその通りで す。ところがデケナヒはわが国ではアルゲンと呼 ばれているとすると変種の下に種があるというこ とになります。わが国をぬきにしても同じことで す。福屋本でそれぞれが区別されているのをみて もわかると思います。アビーアルゲンをアメリ力 ではデナケヒといっているそうですが、それでは これが何故デナケヒ変種アルゲンとしてわが同に きたのかと思うとおかしなことです。

 いずれにしてもアビーのアルケンは林氏が指摘 しておられるように素性不明な点があるのであれ

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ばsp.が適当な処置と考えられます。又学名の世 界からみればアビーのアルゲンはハンチントンカ クタスガーデンで実生されて、アビーを通して流 布されたもののようですから、栽培種と考えて除 外した方が適当と思われます。学名による品種解 説、特に学名云々という場合には分類と育種園芸 とは区別しなければと思っています。

 丁度伊藤芳夫氏が南米物の数多くの新種発表 (1957)された頃です。分類界からいわゆる育種・ 園芸の場からの品種は除外されるようになったよ うです。ハボルチア界では、ヤコブセン氏の本で は交配種にも学名がつけられていますが、以後の ものにはこれらは省かれていたり、区別されたり しているのをみてもわかるようです。

 次にベイヤー氏の著書を参考にすれば、マグニ ヒカの変種群の一つにスプレンデンスがあって、 変種スプレンデンスの幾つかの型(未命名)群の一つを林氏はエスタホイゼニーとし、更に変種スプレンデンスを種に昇格されたわけです。このよ うにマグニヒカは変異の巾の大きい種であること がわかります。そこで考えられるのはこれらを種 にするほどの根拠があるのかなということです。 例えば群落の接近しているところでは当然クライ ンとか、雑種群があるのではと考えられるからで す。

 林氏はガモディームに力をいれておられるようですから、このクラインや雑種群に稔性があるのかどうか、又これらは同じ子孫を残しているかどうか調査研究をされているものと思っています。 間々浸透交雑という用語を使っておられることからも想像されます。最近は遺伝子浸透といわれているようです。

 浸透交雑の面からみれば当然群落間の距離が近 いと想像されます、そうすると群落の分布図とい うものが欲しいものです。ベイヤー氏は分布図を 発表されていますが、ガモディームでは実証する ことが必要ですから、もっと詳細な分布図が必要 ではないかと思います。そうすればマグニヒカの それぞれの変異した個体群のことも生態種なの か、生態型とか生物型とかがわかって理解するこ とも容易ではないかと考えます。このようにすれ ば同種間の変異なのか別種なのかもはっきりする はずです。これは進化の面からみても大いに役立 つものと思われます。

 自然雑種については川原隆氏がシャボテン(No. 100、2001)誌で「ハイブリッドについて考える」中で述べておられるので参考になると思います。 又メサのブラック氏との問答もされたようで、情 報提供の面からみても大いに見習いたいものと思 います。ハボルチア界では多くの人が現地に行か れるわりに、かかることに関心を払われて、現地 の情報が伝えられることが少ないのは誠に惜しい ことだと私は考えています。

 分類界では分類学的分類と生物学的分類に大別 されているようです。前者は従来の分類です。博 物館的分類とか形態分類といわれているもので す。後者は進化を取り入れて説明しようとするも のです。その方法として実検分類学等があります。 ガモディームや生態種や生態型等はニちらの方で 使われている用語のようです。林氏の説はこちら に属しているのではと私は考えています。前者は 科学的で新記載には事実が必要のようです。後者 は推論がはいります。何年何月何日に新種が誕生 したということはわからないからです。推論も根 拠の明示がなければ、それは単なる空論と私は考 えています。単なる空論では意味不明としか考え られないものです。

 研究誌3号に種に対する林説が紹介されていま す。これによると「他と識別可能なディーム]と規定していると記述があります。このディームはガモディームのことのようです。ディームにはいろいろあるのでディームだけでは意味をなさないそうです。隔離された群落を専門的にガモディームという1982年サキュレント誌に記述があります。その接地域集団とか交配集団とかの註釈があ ります。

 ガモディームに名前をつけるという説もあるよ うですが一般化されていないようです。ガモ ディーム間関係は系統分析で命名とは別とされて います。先に述べたようにガモディーム間のこと が不明であれば生態種とか生態型とかがわからな いので命名には困るのではと考えられます。いず れにしてもかかる調査や研究の発表の有無が不明 のようですので、これらのことを考えると変種ス プレンデンスが新種だといわれても理解しにくい のではと思われます。

 そもそもガモディームについては命名が目的の 研究ではなくて、その成りたつ個体集団(ポビュ レーション)の内容の研究のようです。生態的な 集団の時はエコディームというようなものです。 特に分類困難種といわれているハボルチアでは、 その命名はなかなか難しいことは前回にも先にも

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記しているのでおわかりのことと思います。

 林氏の報文によると、レツーサ類は20~50個体 で群落をつくっているそうです。この群落が点て んとあるのか一つで終りなのかには言及されてい ないので知りたいものです。一つずつ群落がある のであれば、変異が連続しているのか不連続なの かによって、当然答えが違ってくるわけですので、 1群落だけで何処のものとも違いがはっきりして おれば種として認めやすいわけです。これらのこ とからも群落の分布図は重要な意味をもつものと 考えられます。

 次にシルビアエを話題にとりあげてみたいと思 います。

 シルビアエのバジオニムはデケナヒ変種アルゲンです。先にも記したようにデケナヒは個体変異 があるようにも思われるので発表にさいしては少 なくともどれを元にしてるのかを記していない と、それぞれの人たちが思っているものと違いが でると思われます。(タイプ写真をみても人によっ て解釈に差がでることもありますから)

 種名にもアルゲンが何故いけないのか具体的な 説明がないとわからないと思われます。アビーの アルゲンが正式なものでないとすれば尚更のこと です。規約にはずれるが合法であるだけではわか りにくいのではと思います。種名シルビアエもシ ルビア女史にちなむだけでは困るので、アルゲン との関係にもふれてほしいものです。同じような ことてすが、コレクタの仲間にハヤシイというの がありますが、記載者名と同じですので珍しいこ とです。記載時には何もふれられていませんので これも知りたいものです。

 シルビアエを種にされるに当って、レツーサ変 種アルゲンとデケナヒ変種アルゲンを元にされて います。いずれもスミス氏の記載によるものです。 これをもとにするとベイヤー氏のそれぞれの研究 には関係がないのか、それとも全く別の話という ことになるようです。がどうでしょう。これらの ことにもふれられる必要があるのではと思います。

 シルビアエには組替えをされて組入れられたム チカ変種=グラ(この後にクロムチカとキムチカ とされたもの)がありますが、研究誌4号ではク ロムチカ ハヤシは本種に極めて近いとありま す。又クロムチカのところにはシルビアエに近い とあります。するとシルビアエ変種=グラ ハヤ シはどうなったのでしょうか。

 クロムチカ ハヤシは3号云々ともありますが3号には記述はありません。

 キムチカについていえば、シルビアエ変種を翌 年英国のハオルシアドでレツーサ変種として発表 されたらしいので、この点の説明かなければ二度 記載したことになりますが、どうでしょう。

 余談になりますが、変種=グラの黄色のものを レツーサ変種としてクイムチカ(黄ムチカ)とし て組替えをして、ハオルシアドで発表されたそう です。この和名を考えると趣があって興味をそそ ります。和名自体をとやかくいうのではなくて、 小話的にみるとおもしろいのではということです。

 もともとはクロイムチカに対してキイロムチ力 といえると考えるとキイロクロムチカとしたらと 思ってみたわけです。ハムシで背中に剌とげがあ るので和名トゲトゲというのがあります。とニろ が刺のないのが発見されてトゲナシトゲトゲとい う和名がつけられました。更にこの仲間にトゲの あるのが発見されるとトゲアリトゲナシトゲトゲ となりました。もう一つ付け加えて、キイロクロ ムチカコトブキとするとトゲトゲの和名と似てい ることを思い出して連想したわけです。

 以上種スプレンデンスやシルビアエ誕生の経緯 がなかなかつかめないので一文を記してみまし た。シルビアエとクロムチカが似ているといわれ ても外見では違うように見えます。趣味家にもわ かるような説明がほしいものです。最近は仙界も 国際的になってきたようです。学名を使う以上は 教養程度のことは知っておきたいものです、ベイ ヤー氏のことも林氏のこともそうです。内外で会 話にも困るようではどうかと思われます。記載者 はもちろん多くの執筆者と意見交換ができればそ れにこしたことはありません。互いに情報交換を して充実したものにしたいものです。

 学名については正しいものであれば新しいものを使うべきでありますが、シノニムになっている古い学名でも同一のものと実証されているものであれば、誤りではないので一方的に正しくないと いうことはいえないようです。そこで見る方も巾 広くこれらのことを知っておく必要があるはずで す。

 新しい情報を知らない時は、国内であれば何々園のコレクタで通用するようですが、国際的にはベイヤーの何々とか、スコットの何々といった方が会話がうまくいくように思われます。お互いにいろいろの面でわいわいいって話が通じるようにガンバリましょう。

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