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 ■ 岸密晴(2008). ハボルチアの世間話 カクタスガイド 263号 日本カクタス企画社刊 p.2~5


ハボルチアの世間話  岸 密晴

 先日、H.エメリアエ変種マジョールを入手しました。福屋崇氏の本をみるとH.ウイミーとして写真がでています。これをもとに話を展開してみたいと思います。この本は非常に良い写真でうめられていますから、分類の方にも標本写真として大いに役立つものと思っております。そこで、これを引用させてもらうことによって共通の話ができるはずです。本そのものは観賞のためのものですのでとやかくいうものではありません。

 このマジョールは最初シュルジッチアーナの変種として導入されました。その後、マライシー、マグニヒカのそれぞれ変種に、そしてエメリアエの変種として現在あるようです。この間シュルジッチアーナがムンドラだという説がでたり、シュルジッチアーナは別物説があったりでややこしくなりました。(多肉植物写真集 1981 佐藤勉、サボテンと多肉植物 1978に写真がでています。) しかし異論がでることもなく今日に至っているようです。だから人によっては同じラベルの名称でモノが違うこともあるようです。又姿態の違うものも幾つか導入されているようだレとにかく当時は人気抜群の美麗種ということで、園芸の世界ではモテモテになり、品種改良も盛んに行なわれ、いわゆる雑種群も存在するようです。今日これらから記載種らしきものはというと、ラベルが無いと不明な点が多いようです。とにかくマジョールの血が入っているというだけでも価値があるものとされた時代でした。

 本種は1種11変種(佐藤勉、サキュレン ト157 1980)という大世帯です。別の見方をすれば変異幅の大きいものと考えられます。このようななか林雅彦氏はマジョールを新種として発表されたようです。(Haworthia Study, 2000)ようですというのは、記載文が無いし、種名とバジオニム(基礎異名)のみで、多くのものと共に表としての発表だからです。表にはsp. nov.とあるので新種とも思われよすが、変種を種にしただけですからstat. nov.ではと考えます。これを後日、地位新種とかの用語を作られたようですが、もし種を変種にした場合はこの用語はおかしくなると思われます。

 マジョールについては、わが国でもそう ですが、ベイヤー、ピルビン各氏の写真に 違いがあるわけですから、いずれにしても 再記載が必要ではないかと考えられます。 その上でバジオニムの指定をするのではな いかと考えています。1種11変種を明確に した上でのウイミーの命名というのであれ ばともかく、シュルジッチアーナ自体不明 な点が多々あるのに、その中の1変種を区 別しての命名とすれば、それ相応のコメン トが無いと私達は引用しにくいのではと考 えます。先の写真集には変種間の区別は難 しいとのことですから、尚更のことです。

 又林氏は本種はアスベルーラに近いとも記述しています。これは自説かどうか判断材料が示されていないのでわかりません。小林浩氏(サキュレント No.100 1975)によるとC. L.スコット氏はアスペルーラにマジョールを含めています。当然他のもの全部も本種に含めています。

 そこで小林説に従ってこれにふれてみます。本種は前述のように二種説があり、変種についても区別が難しいとの話もあります。先ずこれらの解明が必要ではないかと考えます。次にスコット氏の処置、それか

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らベイヤー氏の記述にもふれて説明が必要なのでは。又アスペルーラについては市井で認識しているもの(最初輸入された頃、春庭楽という和名が与えられています。) と林氏が記述しているもの、竜珠とかルビクンダ等々にかなりの違いがあるからです。この頃ビグメアエも導人され、(多分同じものと思われます。)同定に混乱がおきたようです。スコット氏は本種もアスペルーラに含めている事からかもしれません。

 竜珠等々がアスペルーラとする根拠は、林氏はサルム ディック氏にもとめているようですが、スコット氏はハワース説を引用しているようです。これをベイヤー氏はビグメアエのシノニムにしています。そこでこれらからみればベイヤー説に同意してもよいのではと思います。

 ここで次のようなことを書くのはおかしな話ですが、新種記載に際しては、学名、記載者名、日付、異名表、語源、判別文、記載、意見、生態、分布、考察、(新種の時は未記録、未記載のものを書くため異名表は無いと考えています。)を記述して体裁を整えなければと思いますが、どうでしょう。

 簡単な記載では新種の全容がつかみにくくて困ります。最近は形質(特徴)の類似と違いをクラスタ分折やクラスタリンク等の方法で、種の境界を表わそうとしているようです。見れば判るとか、単に区別がつけば新種とかいう時代は昔の話になったのではと思います。私のような単に蒐集して楽しんでいるものには手に負えなくなりました。

 幸いにも林氏は永年ガモディームの調査や研究の結果新種記載にこぎつけられたはずですが、この点の発表がほとんどみられないようですから、期待してまっている次第です。進化についてもガモディームを通じての記述をみれば多くの人達も興味をひくし、仙界の発展にも大いにつながるものと考えます。

 そこで、冠頭に記したH.エミリアエ変種マジョールと関西だけかもしれませんが、通称マジョールとウイミー、そして福屋氏の写真のウイミー、更に佐藤氏(カクタスガイド No.261 2008)は通称マジョールとウイミーを別々にその個体の変異を発表されているもの、これらの整理が必要な時期になってきたのではと思います、皆さんは如何ですか。

 ここで気になるのはエミリアエ変種マジョールで輸入されたのは納得できますが、 ウイミーもこの名前で輸入されているのかどうかということです。ウイミーの記述に際しては基礎異名としてシュルジッチアーナ変種マジョールだけが記されていて、他の関係するものの異名表が無いからです。 著書がでるたびに種名が変るので記さないというのでは理由にはならないのではと思います。先にもふれたようにシュルジッチアーナ全休、更にスコット氏のアスペルーラとの関連、ベイヤー氏の学名の変遷等にふれる必要があるのではと思います。本種とティーマン氏の関係についても知りたいものです。ただ献名しただけではティーマン氏にどう敬意を表していいものかわからないからです。

 いずれにせよ、ウイミーは雲をつかむような話と私には思えるので、コレクタ ネーム(正名、動物では有効名 valid name)として、すでに引用されているのか知りたいと思っています。だから誰かがエミリアエの変種を単にウイミーとしているのではないかと考えられます。この場合はこの二つのものについて何らかの説明を公表してほしいものです。そしてそれまでは、例えば二つの名前を併記するのも一つの方法です(一方は( )で囲む)。そうでないと同じものを別々のものと考えて区別できなくて、困る人がでても不思議ではないからです。本来は全体をつかんでおくのが常ですが、専門家でなければ難しい話です。

 福屋氏は種名についてわが国のハボルチア界の現状を吐露されています。種名の正

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しさは問題ではないというのは少し言いすぎと思いますが、入手時のラベルの名前をたよりにしなくてはならないのも本当の現実の話です。マジョールのように新しい情報は断片的には伝わってきますが、マジョールの基準種にあたるシュルジッチアーナの変異についての整理がなかなかできないのも困ったことです。

 分類をするには先人の業績を無視することはできません。わが国のギムノ界では島田孝氏等により内外の過去の資料集積がされており、海王丸や竜頭等の発表がすでになされています。ハボルチア界も大いに参考にすべきだと私は考えます。

 福屋氏は著書の中でジョイアエ、オブツーサ、ディールシアーナ等分類が混乱しており、私にはよくわからないと記しています。又林氏の総括の正否も時開か解決するはずと述べています。前置きが長くなりましたが、ビリフェラを含めて素人にはというより、現地に居住してでも調査しなければ、そう簡単には解決するとも思えないぼど難問ではと私は思っています。勿論原記載を含む資料の蒐集も必要です。

 林氏のジョイアエの写真(7)と福屋氏の本種が合致しないのではと私は思いますが、どうでしよう。林ジョイアエと福屋オブツーサが同じとすれば当然、林オブツーサと福屋オブツーサは違っているようです。林氏が福屋オブツーサをディールシアーナとすると林ジョイアエがおかしくなるようです。

 林オブツーサはベイヤークーペリー変種ピリフェラと同じだそうです。スコットオブツーサは福屋クーペリー変種ディルシアーナやジョイアエと同じ様です。又ビリフェラは林ゴルドニア“スタイネリー”とよく似た写真がでています。そして著書にはこれにオブツーサ変種ピリフェラとコールドニアやスタイネリーをシノニムにしています。

 ピリフェラはバッケル氏により1870年に記載され、1948午にウイッテワール氏がオブツーサの変種にしました。ここで気付くことですが、このスコット、ウイッテワール両氏のいうピリフェラが同じものかどうかということです この後ヤコブセン氏著書ではオブツーサ変種ビリフェラの写真がでていますが、スコット氏のいうビリフェラとは達います。

 このような書き方では世間話から逸脱してしまって理解しにくいと思うので、問題点を記してみることにします。

 ヤコブセン氏はオブツーサ変種の写真を表示していますが、基準種はでていませ ん。トルンカータはビリフェラの型として写真がでています。これは氏の記載によるものですから学名の引用は氏に従うべきです。林ジョイアエはトルンカータに似ているようですが、オブツーサはヤコブセンピリフェラと似ていないようです。林説ではベイ ヤー変種トルンカータとジョイアエは同一というニとですが、両者の写真は違うようです。ベイヤー変種トルンカータはスコットキンビフオルミス変種オブツーサと同じようです。福屋ジョイアエと変種ディールシアーナもこれと同じように思います。

 林説を整理してみると、2000年にはジョイアエと変種ディールシアーナ。2002年にはジョイアエと変種トルンカータ。2004年にはオブツーサとディールシアーナ。2006 年は変種ディールシアーナとジョイアエがそれぞれ対照されています。このままではおかしい訳で、それぞれ説をかえられた時の説明がないといろいろな考えをもつ人達が出てくると考えます。

 種名ジョイアエについては、おそらくわが国のハボルチア界では表面化していないものと思われます。ベイヤー氏は変種ディールシアーナのシノニムにしていますから、ジョイアエを使う場合は何らかの説明がいると思います。又オブツーサ・クーペリー種群の種群という用語の説明がないと意味がわかり

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にくいようです。基本的に種群という時は一つ上の階級をさすわけです。ベイヤー氏の変種群は種をさすわけで、林氏の種群では系をさすことになるのでおかしいのでは。

 和名からみると、ビリフェラに玉露(1957)変種オブッーサ型トルンガータに玉章が命名されましたが、この頃これが逆になったり混乱が生じたようで、松居謙治氏(ハオルチアを語る会会報)の報文があります。 区別する点から和名も大いに参考になるわけで、これらの事を諭ずる場合は重要な意義をもつわけで、無視することなくふれる必要があるものと考えられます。

 竜担寺雄氏は原色シャボテン・多肉桶特大図鑑(2)(1968)(3)(1972)にオブツーサ変種ピリフェラを玉露、型トルンカータに緑玉盃、変種ディールシアーナには玉章をあてて発表しています。和名に少し食い違いがあります。しかし当時輸入されたものの姿態をよく表わしています。特に肌色を注意してみて下さい。万象や玉扇のよ な肌色をしています。キンビフオルミスの肌色とは違います。

 ベイヤー氏はポピュレーション(個体集団)をもとに、林氏はガモディーム(多少とも隔離した局地的な巣団で、内部で交配しているもの)をもとに考えを展開しているので、多少の相違があってもおかしくないようです、だからエミリアエ変種マジョールの新産地が発表されても余り違和感がないようです。ウイミー説をとると、内部交配集団でなければいけないし、世代を繰返しても親と同一でなければいけないわけです。だから現地調査や実生実験が必要になると思います。素人でも変種マジョールを 実生したら新産地のものと同じものができるとは考えにくいわけで、これをウイミーとするのはどうかと思われます。

 かかることを私が記すまでもなく、新種や種の移行をされたり、区別がつけば新種とか、中間種は種とか新説を唱えて、それを実行される発表者が、発表に際してその根拠として記すべきだと私は思います。又専門家同志では尚更のことのようではと考えます。

 このように説が違うと答にも相違がでてくるわけで、単純に新産地の変種マジョールを新産地のウイミーとはならないので注意したいものです。ジョイアエについては先に記したように林氏自身の種名にぐらつきがあって判りにくいようです。ウイミーについては、何故シュルジッチアーナ変種マジョールを新種にしたかの理由を記す必要があると思います。又マジョールをウイミーにした理由もいちいち記さなければいけないと思われます。

 スコット氏の著書をみると、ベイヤー説とは大分違うところがあります。アルチリネアの写真があります。ベイヤー氏はピリフェラのシノニムにしていますが、種名の上からみれば知っておく必要があるようです。スカブラやソルリダも比較してみる必要があります。ツベルクラタも写真があります。ヤコブセン氏のと違ったものです。 愛培品にラベルをつけるには大いに参考になるようです。吉沢慎一氏の時代にはニの仲間は大珍品で、仲々みるニともできなかったものです。そこで雑種説まで誠しやかにささやかれたものです。

 最近、ザラ肌のスカブラ変種ジョニーを市井で複数個体をみました。記載と達うよ うで、ニれらの点どうなのか知りたいものです。アスペルーラについてはスコットの写真のものは、林ネームのどれに当るのか、更に林ネームには7種に対応されていますが解説が欲しいものです。

 最後に、素人のささやかな知りたいことを書きつらねてしまいました。皆さんでわいわい言って、説明の出来るラベルを愛培品につけたいと思っています。森本精氏には資料の協力を得ました。お礼を申し上げます。                  以上

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