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原種の輸入についての注意

 最近、南アフリカのセミプロから日本の趣味家に対して、ハオルシアの珍種の現地株を買わないかという売り込みが時々あるようだ。ただしこの手の売り込みには次のような注意が必要である。


 第一に、ハオルシアの現地株を商業的に採集して販売するということは違法行為だという点である。ワシントン条約の規制対象種でなくても、南アフリカ特産の多肉植物はほとんどすべてが南アフリカの法律で商業的採集や野性株の販売が禁止されている。
したがってこのような売り込みは違法であるし、それを承知で購入すれば購入者も故買ということになる。


 第2にその売り込み値段が驚くほど高い。例えば1昨年にはH. agnisやH. globosiflora、あるいはH. lividaの売り込みがあったが、H. agnisで1株700ドル(約7万円)、H. globosifloraで1株100~150ドル(1~1.5万円)、H. lividaでは大型が1株550ドル(5.5万円)、小型で1株400ドル(4万円)と言う次第である。

 この時、A氏から相談を受けた私は購入しない方が良いと助言した。またこんな高値で買うのはたぶん日本人しかいないし、売り込みを受けた何人かの日本人が断れば世界で他にこんな値段で買う人はいないので、たぶん値段を下げてくるだろう、ということも付言した。A氏は結局当初の価格で相当数の株を購入したが、B氏はいったん断ったところ、案の定、後から相当値段を下げてきたので、かなり安く(それでも1株200ドル)購入できた。

 今年秋にはH. marxiiの売り込みがあり、1株1300ドル(約10~11万円)と言う話である。B氏から相談を受けた私は「買わない方が良い。どうしても欲しいとしても1~2株にして後は様子を見た方が良い。」とアドバイスをしたところ、見送りにしたようである。
いくら珍種でも足元を見たような法外な高値での売り込みは、断わるべきであろう。


 第3にこの値段設定には間違いなく裏で日本人が関与している。10万円と言うと南アフリカの感覚では少なくとも30万円(普通のサラリーマンの月収)、地方では100万円相当である(地方では月収1万円程度で働いている人が多数いる)。またSheilamのカタログ価格や欧米でのハオルシアの値段から見てもハオルシアがそんなに高値で売れると考える人は皆無である。実生や交配の選抜優良個体でも1株数万円で取引されるのは日本や中国、台湾、韓国などの東アジアだけである。

 したがって南アフリカ人や欧米人が、いくら珍種と言っても1株数万〜10万円もの値段で売れると考えて売り込みをするというのは考えられない。おそらく売り込み人と親しい日本人が『日本ならこれくらいの値段でも売れる。』とアドバイスしたのに間違いない。その日本人はたぶん売り込みが成功したら何本かただで、あるいは極めて安くその種を入手できる約束になっているのであろう。こんな輩に利用されることはない。


 第4にもっとも重要な点は、いくら珍種といっても原種は実生で大量生産が可能だということである。例えばH. agnisはSheilamでこの秋に売り出されたが、その価格は1本85ランド(約1000円)である。すぐに売り切れになってしまったが、すこし(来年?)待てばまた売り出されるだろう。H. globosifloraは毎年売り出されているし、H. marxiiも実生が始まっており、葉挿し苗ならもう何本も日本に来ている。数年後にはどこかで実生苗も発売されるであろう。原種の場合、あせってとんでもない値段で買うことはない。

 この点、交配の選抜優良個体は実生では繁殖できないので、組織培養でもしない限り大量生産は難しい。交配して選抜するまでの時間と手間を考えれば価格がそれなりに高くなるのは納得できる(組織培養の場合も相当の経費と時間がかかる)。いずれにしろ山取り株をそのまま売るのとはわけが違うことは認識すべきであろう。


 最後にもう1点付け加えると、原種を何株か買えばその中に特異個体や優良個体が含まれている場合がある。高値でも珍しい原種を買う人はおそらくその可能性に賭けているのであろう。しかしその確率は実生苗でも同じだし、実生苗なら安い分だけたくさん買えるので優良個体が含まれる可能性はより高くなる。

 加えて実生する方にしてみれば、優良個体から採種して実生した方がよりよい苗が生産できるので、当然なるべく優良な個体同士を交配して採集することになる。販売される実生苗の方が野性集団より優良な個体が多いというのは事実であり、これは園芸的優良個体は往々にして虚弱なので野性では生き残れないが、栽培条件下でははるかに高い確率で生育可能なためである。

 しかもSheilamの苗の場合その傾向は年々強まる。それは最初の内は交配できる個体でとりあえず採集するが、2年目、3年目になると優良な親個体を選抜したうえで採種するようになるためだと推定される。したがって実生苗でも後から採種、実生された苗の方が優良個体の含まれる可能性は高いと言える。


2010.10.19