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ハオルシアの新種名について   林 雅彦

 ハオルシアの分類については現在おおむねBayerの大きな種区分による分類体系と、Hayashi-Breuerの小さな種区分の体系とに分かれています。

 Bayerの体系は種を大きくとらえているので種数が少なく、したがってHaworthia Revisited (1999)以降、あまり大きな変更はありません。ただしUpdate (1~4)に見られるごとく、非常に異なった形態の植物でも同一種にしてしまうなど、かなり無理があります。彼の体系のもっとも大きな問題点は、どのような基準で種をまとめ(同一種と判定し)、またどのような基準で種を分けているか(別種と判断する)が全く明らかでなく、大変恣意的だという点です。おそらく彼の頭の中にも統一的な種の基準がなく、したがって同じUpdateの中でもVolumeによって同一群落の名前がコロコロ変わるという事態が生じています。

 一方、Hayashi-Breuerの体系では種を細かく分けるため、種数は大変多くなります。種を分ける基準は群落間に頻繁な遺伝子交換がない(と見られる)かどうかです。ハオルシアの場合一般に一つの種の大きさはおおむね直径10~20kmの範囲と推定され、30km以上離れている群落は別種の可能性が高い(頻繁な遺伝子交換の可能性が低い)と判断しています(群落が連続的に分布している場合等を除く。)この考え方の詳細はハオルシア研究17号の『種概念について』を参照してください。

 このような観点から群落(Deme)を分けていくとハオルシアにはまだ膨大な数の未記載種のあることに気付きます。つまりこれまで記載されているのはほとんどが町や村の近郊か道路沿いの群落で、山や原野の奥地の群落はほとんど手つかずだったからです。Update1、Essay5のKaboega (Suurberg)などがよい例で、こんなところにこんな膨大な変異があったとはごく最近までだれも知らなかったわけです。これらの植物はほとんどが新種と考えられ、一部は記載されましたが、さらになお整理が必要です。

 現在私とBreuerとで既存種や新産地の群落などを整理しており、順次発表していく予定です。しかしKaboegaのような集中的産地(放散中心地)が他にもいくつかあり、全体ではおそらく600種以上、ことによると1000種近い種が存在するかも知れないという状況です。またHaworthia分類に特徴的なことですが、Haworthiaは自生状態の形質からは必ずしも的確に分類できず、採集後2~3年良好な環境下で育て上げて初めてその特徴が発現し、違いが分かるという場合が多々あります。したがってある群落が既存種や類似種と同一かどうかを判定するのにはかなり時間がかかります。

 これら新種候補には私やBreuerがそれぞれ暫定名(仮名、裸名)を付けており、重複して命名しないよう、互いに連絡を取り合っています。ただしそれらの名前がすべて新種として将来発表されるわけではなく、なかにはやはり既存種と同一だと判断されたり、あるいはより適当な名前に変更されたりする場合もあります。またH. jansenvillensis のようにBreuerは1種だと考えているのに対し、私は4種あると考えているような場合もあります。(このcaseではおそらく2種(H. eminensH. molis )に落ち着く可能性が高いです。)

 BreuerのEden Plantsのリスト名はその多くが暫定名ですが、その名前で苗が第三者に譲渡されてから変更される場合もあり、以前の名前でその苗が組織培養などで繁殖され、他店(STCなど)で売られている例もあります。なるべく一旦つけた名前は変更しないようにしていますが、種の数が多いのでふさわしい名前を考案するのが結構難しく、地名などから暫定名を付けてあるものもかなりあります。新種名の約2/3は私が考案しており、したがって日本語や日本語をもじった名前もかなりあります。またBreuerは地名にそのまま”-ensis”を付けて種名とすることが多いのですが、かなり長くなる場合もあり、その場合は私がより短い名前を考案して提案しています。そのようなわけで名前の変更が時々ありますので、新種の名前は正式発表まではすべて仮名(暫定名)であることに注意してください。


 さて掲示板で希望のあった、新種が発表されたときにそれを紹介してくれ、という件ですが、なるべくご希望に沿うようにしたいと思います。ただ新種はどの文献(雑誌)に発表されるかわからないので、他人の発表したものは気がつくのに時間のかかることがあります。ちなみにH. specksii はBreuerによって2004年にAlsterworthia International誌のSpecial Issue 7に発表されています。この号には他にH. calaensis , H. lapis , H. pallens , H. fusca , H. jakubii , H. vincentii の計7種が記載されています。

 なおこれらの新種は既存種から分離されたとお考えのようですが、そうではなく、群落ごとに特徴を検討した結果、既存種のどれにも当てはまらないと判定されたものです。H. specksii のようにもともと知られていた群落で、Bayerの分類ではH. blackbeardiana に含まれるような場合もありますが、H. calaensis のように全く新産地という場合もあります。またBayerはH. jakubiiH. vincentii H. splendens と言っているようですがH. esterhuizenii の場合以上にこれらをH. splendens とすることには無理があります(これらの種はH. acuminata に近い)。

 Haworthia Revisited以降に記載された新種については近く一覧表を作成するつもりです(できたら次号ハオルシア研究誌?)。(新種の整理の他、園芸品種名の整理から写真集(西氏との共著)の準備、会員名簿の作成などなど、整理する事柄ばかりで肝心の標本植物や実生苗の管理がおろそかになりそうです。)

2010.1.27